2025年6月4日
高知県における生成AI活用の現状と展望〜企業リテラシーと成功事例から考える〜

目次
はじめに
近年、ChatGPTをはじめとする生成AIの急速な進化により、ビジネス環境は大きな変革期を迎えています。 全国的に企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進が加速する中、「課題先進県」とも呼ばれる高知県においても、生成AIを活用した業務効率化や新たな価値創出の取り組みが始まっています。
本レポートでは、高知県内企業における生成AIの活用状況とリテラシーレベル、 成功事例や課題、そして行政による支援策などを総合的に分析します。 これから生成AIの活用を検討される企業の皆様にとって、 高知県の現状を理解し、自社に適した活用方法を見出すための一助となれば幸いです。
このレポートのポイント:
- 高知県の生成AI活用状況と「第2期デジタル化推進計画」の概要
- 製造業、商店街、その他業種における具体的な活用事例
- 企業のAIリテラシー現状と課題
- 活用推進のための公的支援制度
- 自社に適した生成AI導入・活用のアプローチ
高知県における生成AIの現状
高知県は四国地方に位置する自然豊かな地域であり、全国の中でも少子高齢化や人口減少が進む「課題先進県」としての側面を持ちます。 このような背景から、限られた人的リソースを補完し、生産性向上や地域課題解決のツールとして、 生成AIへの期待と注目が高まっています。
高知県の産業構造と課題
高知県の製造業は規模が比較的小さく、2019年の製造品出荷額は約5,855億円と全国46位にとどまっています。 県経済に占める製造業比率も8.5%と全国平均20.4%を大きく下回り、食品(18.4%)、生産用機械(12.4%)、 パルプ・紙(11.0%)といった分野が主力です。多くが中小企業で、人手不足や高齢化による技術者減少が深刻な課題となっています。
課題 | 生成AIによる解決アプローチ |
---|---|
人材不足・高齢化 | 業務効率化、ノウハウの形式知化、教育支援 |
熟練技術の伝承 | マニュアル自動生成、技術文書のデータベース化と検索効率化 |
経営資源の制約 | 少人数での業務遂行、マーケティング効率化 |
地理的制約 | リモートワーク支援、オンラインでの顧客対応強化 |
生成AI導入の現状
帝国データバンクの調査によると、四国地域の企業のDX実施率は14.2%程度で全国平均をわずかに下回っています。 特に製造業や小売業などでは関心度が全国平均より5〜7%低い結果となっていますが、 新型コロナウイルス感染症の流行以降、業務の非対面化・効率化の必要性から県内企業のデジタル化への関心は高まりつつあります。
四国4県の生成AI導入状況に関する最近の調査では、「既に導入済み」「トライアル中」「検討中」を合わせると約6割の企業が前向きな姿勢を示しており、 県境を越えた成功事例共有や共同研修による知見の横展開が有効と分析されています。
高知県のデジタル化推進計画と生成AI
高知県では、令和6年度(2024年度)から令和9年度(2027年度)までを計画期間とした「第2期高知県デジタル化推進計画」を 策定し、”デジタル化の恩恵により、暮らしや働き方が一変する社会”の実現を目指しています。
第2期高知県デジタル化推進計画の概要
この計画では、「生活」「産業」「行政」の3つのDX領域で強化策を展開しています:
- 生活DX:医療DX、介護事業所のデジタル化、遠隔教育推進、防災アプリなど
- 産業DX:IoPプロジェクト(データ駆動型農業)、スマート林業、デジタル人材育成・確保など
- 行政DX:行政手続のオンライン化、業務プロセス見直し、基幹システム標準化など
特に生成AIについては、「生成AIの操作や活用事例についての研修を行うことにより利用促進やスキルアップを図りながら、全庁で本格的に活用」する方針を明記しています。
行政における生成AI活用事例
高知県は行政内部でも生成AIの導入を積極的に進めています。2023年11月から全職員が利用できる生成AIサービスを導入し、 文章作成やアイデア出しなどでの活用を始めています。特筆すべきは、県議会での知事答弁書作成にも生成AIを活用している点です。
これは自治体における生成AIの実用的活用事例として注目されており、職員の文書作成負担軽減と業務効率化に寄与しています。 同時に、適切な利用ガイドラインも整備されており、生成AIの特性と限界を理解した上での運用が行われています。
企業における生成AI活用事例
高知県内の様々な業種で生成AI活用の取り組みが始まっています。ここでは、業種別に具体的な事例をご紹介します。
製造業の活用事例
株式会社オサシ・テクノス
地質調査・計測機器の製造販売を行う同社では、生成AIを社内業務に積極的に活用しています。 高知県工業会主催の生成AI活用セミナーでも事例紹介を行っており、製造業における具体的な導入方法と成果が 地域企業の参考になっています。
また、同社はAI人流・交通分析システムの開発にも取り組んでおり、技術による地域課題解決を模索しています。
株式会社垣内
南国市に本社を置く産業機械メーカーの株式会社垣内は、県のモデル企業として工場のスマートファクトリー化に取り組んでいます。 同社では、高機能3D CADと溶接ロボットを連携させ、生成AIも活用した製造プロセスの効率化を図っています。
特に注力しているのが、熟練技術者のノウハウの形式知化です。生成AIを使って作業手順の動画マニュアル化や 技術文書の整理・検索システム構築を進め、若手への技能伝承を加速させています。
高知機型工業株式会社
同社はRPAと生成AIを組み合わせたデジタル化を推進し、企業成長の原動力としています。 特に業務効率化・省力化、ミス削減、データの見える化に注力した事例として県の「デジタル技術導入事例」にも紹介されています。
商店街・小売業の活用事例
協同組合帯屋町筋(高知市)
高知市の中心商店街である帯屋町筋商店街では、AIカメラを活用した人流データ取得システムを2024年に導入しました。 電気興業株式会社と連携したこの取り組みでは、商店街の人の流れをAIで分析し、各店舗のマーケティング戦略立案や イベント効果測定などに活用しています。
同商店街では15店舗がデジタル化・データ活用に取り組み、その中で生成AIやLINE公式アカウントの機能により 業務の一部を自動化する施策も実施。少ない人数でも新しい取り組みができる体制づくりに成功しています。
その他業種の活用事例
酔鯨酒造株式会社
1872年創業の老舗酒造メーカーである酔鯨酒造では、シンガポール発のスタートアップ企業Zevero社と提携し、 AIを活用した炭素会計プラットフォームを導入しました。日本酒の製造工程全体のCO2排出量(カーボンフットプリント)を 見える化し、脱炭素経営に活かす先進的な取り組みとなっています。
伝統産業と最新技術の融合事例として、生成AIも含めたデジタル技術の多面的活用が注目されています。
よさ来いワイナリー
高知市に2017年設立されたよさ来いワイナリーは、年間1万本以上のワインを製造・販売する地域発のワインメーカーです。 同社は創業当初から将来の人手不足や事業継承の課題を見据え、DX活用による持続可能な経営を目指しています。
生成AIを活用し、ブドウ栽培の環境データや醸造プロセスの情報を蓄積・分析することで、 職人の勘に頼ってきた部分を科学的知見で補完する研究を進めています。
株式会社Nextremer
高知県南国市に本社を置くこのIT企業は、AIデータラベリングやモデリングを行う専門企業として注目されています。 AIモデル開発に必要なデータ作成から機械学習エンジニアとの連携による高品質なデータ提供を行い、 様々な産業向けにAIソリューションサービスを提供しています。
地元企業へのAIリテラシー啓発にも力を入れており、2024年5月には高松市にも新たなAI開発拠点を開設し、 四国全域でのAI活用推進に取り組んでいます。
高知県内企業のAIリテラシー状況
高知県内企業のAIリテラシーは、全国と比較して発展途上の段階にありますが、着実に向上しています。 ここでは現状と課題、そして企業が直面する主要なハードルについて分析します。
リテラシーの現状
高知県内の企業、特に中小企業においては、以下のようなAIリテラシーの状況が見られます:
- 生成AIへの関心は高まっているが、具体的な活用方法や導入プロセスに関する知識が不足している
- 企業規模や業種によってリテラシーに大きな差がある
- 先進企業と未導入企業の二極化が進みつつある
- 社内でのIT人材不足が導入の大きな障壁となっている
- 経営層と現場のリテラシーギャップが存在する場合がある
企業が直面する主な課題
課題領域 | 具体的な課題 | 対応アプローチ |
---|---|---|
人材・スキル面 | IT人材の絶対数不足、社内のデジタルリテラシー格差 | 研修プログラムの活用、外部専門家との連携 |
コスト意識 | 投資対効果(ROI)への不安、高額なシステム導入への躊躇 | 低コストから始める段階的導入、補助金の活用 |
情報セキュリティ | 生成AIへの機密情報入力リスク、セキュリティ対策の知識不足 | 専門家によるガイドライン策定、安全な利用方法の習得 |
活用イメージ | 具体的な業務への適用方法や効果の予測が困難 | 身近な成功事例の共有、ハンズオン支援の活用 |
リテラシー向上の好循環
県内の先進企業では、「小さな成功体験」を積み重ねることでリテラシー向上の好循環が生まれています:
- 低コストで導入できるツールから着手(例:ChatGPT無料版の業務活用)
- 小さな成果を可視化(文書作成時間の短縮、情報整理の効率化など)
- 社内での成功事例共有による関心喚起
- 経営層の理解と支援獲得
- 本格的な導入と全社的活用へ展開
生成AI活用に向けた支援体制
高知県では、企業の生成AI活用を後押しするための様々な支援制度や取り組みが整備されています。 ここでは主要な支援策をご紹介します。
公的支援制度
デジタル技術活用促進事業費補助金
高知県が実施するこの補助金制度は、中小企業がデジタル技術を活用して生産性向上や業務効率化を図る取り組みを支援するもので、 生成AIの導入・活用も対象となっています。
- 補助率:最大2/3(高度な取り組みの場合)
- 上限額:最大1,000万円
- 対象:高知県内に本社または事業所を有する中堅・中小企業
高知デジタルカレッジ
2022年に開講されたオンライン学習も取り入れた教育プログラムで、DX推進セミナーやデジタル人材育成講座が 常時開催されています。生成AIに関する講座も充実しており、基礎知識から実践的な活用方法まで学ぶことができます。
例えば「第2回【生成AI活用への初めの一歩 ~ChatGPT・Bing AIを事例に~】」といった講座も開催されています。
デジタルリテラシー講座
2024年には県主催で中小企業の社内DXリーダー育成を目的とした全14回の「デジタルリテラシー講座」も開講されており、 60種以上のオンデマンド研修コンテンツを通じて、生成AIを含む幅広いデジタル知識を学べる環境が整備されています。
民間支援サービス
SHIFT PLUS「生成AI導入・活用支援事業」
株式会社SHIFT PLUSは高知県の企業に対して、生成AIの導入と活用を強力にサポートする事業を展開しています。 高知の中小企業に特化した生成AI(ChatGPT)のビジネス活用支援サービスを提供し、 業務効率化、DX推進、人材育成を目的とした研修プログラムと対面サポートを行っています。
このサービスでは、単なる技術導入に留まらず、企業の業務フローや課題に合わせたカスタマイズされた 支援が特徴で、県内各社の成功事例も蓄積されています。
高知よろず支援拠点のAI活用相談
高知県よろず支援拠点では、ITやAI活用に特化した専門家による相談対応も行っています。 「幅広い専門知識と経験を武器に、皆さまのビジネス課題の解決や成長を全力で支援」するサービスを提供しており、 生成AIの活用方法についても相談可能です。
コミュニティ・ネットワーク
高知県内では、生成AIなど最新技術に関する知見共有やネットワーキングの場も形成されつつあります。 例えば「生成AIへの感度が高い方が集まる、高知県内のコミュニティ」があり、定期的にイベントが開催されています。 こうした場は高知県内の生成AI活用事例を得られる貴重な機会となっています。
今後の展望と提案
高知県における生成AIの活用はまだ始まったばかりですが、今後さらに拡大・深化していくことが予想されます。 ここでは、これから生成AI活用を検討される企業に向けた提案と、高知県全体としての展望をご紹介します。
御社に適した生成AIの活用方法
生成AI活用は「一律の正解」がなく、各社の業種・規模・課題に応じたアプローチが必要です。 以下のステップでの検討をお勧めします:
【生成AI導入・活用の5つのステップ】
-
自社の課題を明確化する
人材不足、業務効率化、ナレッジ管理など、何を解決したいのかを具体化します
-
小規模な実証実験から始める
無料版のChatGPTなどで、特定の業務における効果を検証します
-
リテラシー向上のための研修を実施
高知県の支援制度も活用しながら、社内の理解と知識向上を図ります
-
社内ガイドラインを整備する
安全な活用のためのルールを定め、適切な運用体制を構築します
-
段階的に活用領域を拡大する
成功事例をもとに、他部署や他業務への横展開を進めます

業種別の活用アイデア
業種 | 活用アイデア | 期待される効果 |
---|---|---|
製造業 |
・作業マニュアルの自動生成 ・技術文書の検索・要約システム ・不具合原因の分析支援 |
技能伝承の効率化 開発・設計期間の短縮 品質向上 |
小売業 |
・顧客対応FAQ自動生成 ・商品説明文の作成 ・SNS投稿の効率化 |
顧客満足度向上 販促活動の強化 コンテンツ作成時間短縮 |
観光業 |
・多言語対応の強化 ・旅行プラン提案の自動化 ・地域情報の集約と発信 |
インバウンド対応力向上 顧客体験の充実 業務効率化 |
農林水産業 |
・栽培・飼育知識のデータベース化 ・市場動向分析 ・気象データと連携した意思決定支援 |
技術継承 収穫量・品質の向上 経営判断の高度化 |
高知県の今後の展望
高知県全体としては、以下のような展望が考えられます:
- 成功事例の横展開:垣内やオサシ・テクノスのようにDXで生産性向上を実現した企業の事例が他社に波及し、 県内全体のデジタル化レベルが向上
- 域内連携の強化:県内企業同士や産学官のネットワークを通じた知見共有や共同開発の促進
- 課題解決モデルの確立:「課題先進県」で培ったソリューションを他地域へ発信・展開する地方発のイノベーション創出
- 人材育成の加速:デジタル人材のすそ野拡大と若手人材の定着による地域活性化
まとめ
本レポートでは、高知県における生成AI活用の現状と企業のリテラシー状況を多角的に分析しました。 人口減少や高齢化といった課題を抱える高知県において、生成AIは業務効率化や人材不足の解消、新たな付加価値創出に 大きな可能性を秘めています。
県内ではすでに製造業、商店街、食品加工業など様々な分野で先進的な取り組みが始まっており、 行政や支援機関もデジタル人材育成や補助金制度などを通じてこれを後押ししています。 一方で、特に中小企業においてはまだAIリテラシーや導入ノウハウ、人材面での課題も残されています。
生成AIの活用は一朝一夕に実現するものではなく、地道な取り組みと段階的なアプローチが重要です。 まずは自社の課題を明確にし、小さな実証から始めることで、着実に成果を積み上げていくことが望ましいでしょう。
私たちは、お客様の業種や規模、課題に応じた最適な生成AI活用の道筋をご提案し、 導入から定着までの各フェーズでサポートいたします。高知県の豊かな可能性を引き出し、 デジタルの力で地域経済の活性化に貢献できることを楽しみにしています。
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