サーバーの知識が少なくても安心して作業できる移管手順と注意点

目次

はじめに – サーバー移管の基本を理解しよう

こんにちは!フロントエンドエンジニアのみなさんは、HTML/CSS/JavaScriptを使ってウェブサイトの見た目や機能を作るのは得意だけど、サーバー周りのことになると「よくわからない…」と感じることはありませんか?

私も最初はそうでした。でも、クライアントから「サーバーを移管してほしい」と頼まれたとき、避けては通れないのがサーバーの世界です。この記事では、特にウェブサイト移管とセットで考えるべきメールサーバーの移管について、フロントエンドコーダーでもわかりやすく解説します。

サーバー移管とは?

サーバー移管とは、ウェブサイトやメールのデータを現在のサーバー(引っ越し元)から新しいサーバー(引っ越し先)に移し、ドメインの向き先を変更することです。引っ越しのイメージで考えると分かりやすいでしょう。

サーバーとドメインの関係

引用元:【WEB担当者向け】はじめてのサーバー移管を図解してみた(nowhere blog)

サーバーはデータが入る「箱」、ドメインは「住所」のようなものです

基本概念の整理

  • サーバー:ウェブサイトやメールのデータが格納される「箱」のようなもの
  • ドメイン:ウェブサイトの「住所」(例:example.com)
  • DNS:ドメイン名をIPアドレスに変換する仕組み(住所録のようなもの)
  • MXレコード:メールの配送先を指定するDNSの設定
  • SSL証明書:安全な通信を確保するための電子証明書

注意点

サーバー移管は「手間がかかる&リスクが高い」作業です。特にメールサーバーの移管は、ビジネスコミュニケーションに直結するため、より慎重に行う必要があります。

ウェブサイトの移管手順

まずは、ウェブサイト(Webサーバー)の移管の大まかな流れを見ていきましょう。メールサーバーの移管は、ウェブサイトの移管と並行して行うことが多いためです。

  1. 移転先のサーバー会社を決める
  2. 現在のドメイン管理下でDNSを設定できるか確認
  3. 移転先サーバーで使用中の独自ドメインを設定
  4. 移転先サーバーへ移転元データのアップロード
  5. 移転先サーバーで事前動作確認
  6. 事前にSSL化できる場合はSSL化設定
  7. 移転先サーバーでメールアドレスの作成
  8. 使用しているメールソフトに移転先サーバーの設定を追加
  9. ドメイン管理会社でDNSサーバー(ネームサーバー)の設定変更
  10. 移転先サーバに切り替わり後、再度動作確認
  11. 旧サーバーを解約

※青字の項目はメールサーバー移管に特に関連する部分です

ポイント

ウェブサイト移管だけを行い、メールサーバーは元のサーバーに残すという選択肢もあります。ただし、多くの場合はコスト効率や管理のしやすさの観点から、両方を同時に移管します。

メールサーバー移管の基礎知識

メールサーバーの移行が必要なケース

  • Webサイトの引越しに伴い、メールもまとめて移管したい場合
  • 現在のメールサーバーの容量が足りなくなった場合
  • より安定した、または機能が豊富なサービスに乗り換えたい場合
  • サーバー事業者のサポート品質に不満がある場合

メールの運用方法の種類

メールの運用方法には大きく分けて3種類あります。移行方法や手順はこの運用方法によって異なります。

特徴 ①POP接続 ②IMAP接続 ③Webメール
データ保存場所 パソコン内に保存 サーバーに保存
(PC内には残らない)
サーバーに保存
(PC内には残らない)
複数人での使用 1人1アドレスが最適 複数人で共有利用が可能 複数人で共有利用が可能
データ移行 移行してもPC内にデータが残る 移行の際はデータ移行が必要 移行の際にデータ移行が難しい
(一部例外あり)

重要

現在のメール運用方法を確認することが最初のステップです。特に②IMAPと③Webメールでは、メールサーバーを移行するだけでは過去のメールデータを引き継ぐことができません。

メールサーバー移管前の準備

1 現状のメール運用方法を確認する

使用しているメールソフトまたはメールシステムがPOPとIMAPのどちらの接続方法に設定されているか確認します。

確認方法:

  • Microsoft Outlook: アカウント設定 > アカウント > プロパティ > サーバー情報タブで確認
  • Thunderbird: 設定 > アカウント設定 > サーバー設定で確認
  • Apple Mail: 環境設定 > アカウント > アカウント情報タブで確認

2 必要な情報を収集する

移行作業に必要な情報を事前に収集しておきましょう。

収集すべき情報:

  • 現行サーバーの情報: FTPアクセス情報、メールサーバー接続情報
  • ドメイン管理情報: ドメイン管理会社、管理パネルへのログイン情報
  • 使用中のメールアドレス一覧: すべてのメールアカウントとパスワード
  • メールソフト設定情報: POP/IMAPサーバー、SMTPサーバー、ポート番号

3 バックアップを取得する

移行前には必ずデータのバックアップを取りましょう。

バックアップ方法:

  • POP接続の場合: メール本文はパソコンに保存されているため基本的に作業不要
  • IMAP接続の場合: メールソフトで一度すべてのメールをダウンロードするか、エクスポート機能を使用
  • Webメールの場合: 可能であればメールソフトにインポートするか、重要なメールをPDF保存

4 移行スケジュールを計画する

メール受信に影響が出ないよう、最適なタイミングで移行作業を行いましょう。

推奨スケジュール:

  • 時間帯: メール利用の少ない時間帯(夜間や週末)
  • 余裕: DNS設定の変更が反映されるまで最大72時間かかる場合があることを考慮
  • 並行期間: 移行後も1週間程度は旧サーバーを維持し、メールの取りこぼしがないようにする

POP接続メールの移行手順

POP接続の場合、メールはパソコン内に保存されるため、比較的シンプルに移行できます。

  1. 移行先サーバーにてメールアドレスの発行
  2. 移行先サーバーへの切り替え(DNSの変更)
  3. メールソフトの設定更新

1 移行先サーバーにてメールアドレスの発行

まずは新しいサーバーで、現在使用しているのと同じメールアドレスを発行します。

主なレンタルサーバーでのメールアドレス設定方法:

  • エックスサーバー: サーバーパネル > メールアカウント > 【メールアカウントの追加】
  • ロリポップ: ユーザー専用ページ > メールアドレス設定 > 【メールアドレスを追加する】
  • さくらインターネット: サーバーコントロールパネル > メール > 【メールアドレスの追加】

この時点では旧サーバーが稼働中のままで、新サーバーへのメール配信はまだ始まっていません。

2 DNSの変更(後述の「DNSとMXレコードの設定」セクションで詳説)

メールサーバーへの接続を新サーバーに切り替えるために、DNSのMXレコードを変更します。

3 メールソフトの設定更新

DNSの設定変更後、メールソフトの接続情報を更新します。

更新が必要な主な設定項目:

  • 受信サーバー(POPサーバー)
  • 送信サーバー(SMTPサーバー)
  • メールパスワード
  • ポート番号(セキュリティ設定によって異なる場合あり)

移行直後は、古いサーバーに届いたメールと新しいサーバーに届いたメールが混在する可能性があります。移行完了までは両方のサーバーをチェックするようにしましょう。

IMAP接続メールの移行手順

IMAP接続の場合、メールはサーバー上に保存されるため、過去のメールデータも移行する必要があります。

  1. 移行先サーバーにてメールアドレスの発行
  2. メールソフトにIMAP新規アカウント設定を追加
  3. 過去メールのサーバー間データ移行
  4. 移行先サーバーへの切り替え(DNSの変更)

1 移行先サーバーにてメールアドレスの発行

POP接続と同様に、新しいサーバーでメールアドレスを発行します。

2 メールソフトにIMAP新規アカウント設定を追加

既存のアカウント設定はそのままに、新たに移行先サーバーのアカウント設定を追加します。

主な設定項目:

  • 受信サーバー(IMAPサーバー)
  • IMAPポート番号(通常は993または143)
  • 送信サーバー(SMTPサーバー)
  • SMTPポート番号(通常は587または465)
  • メールパスワード
  • SSL/TLS暗号化設定

この時点では、同じメールアドレスで新旧2つのアカウント設定がメールソフト内に存在することになります。混乱を避けるため、アカウント名を「example@domain.com(旧)」「example@domain.com(新)」のように区別しましょう。

3 過去メールのサーバー間データ移行

IMAP接続の場合、過去のメールは手作業でデータ移行する必要があります。

メールソフト間でのデータ移行方法:

  1. メールソフトで旧IMAPアカウントと新IMAPアカウントの両方を開く
  2. 移行したいメールフォルダを選択
  3. フォルダ内のメールを選択(Ctrl+Aなどですべて選択可能)
  4. 選択したメールを新IMAPアカウントの対応するフォルダにドラッグ&ドロップ
  5. すべてのフォルダで同様の作業を繰り返す

メール数が多い場合、処理に時間がかかります。また、同一サーバー会社間(エックスサーバー同士など)では、FTPでのデータ転送が可能な場合もあります。

4 DNSの変更(MXレコードの更新)

データ移行が完了したら、MXレコードを変更して新サーバーへ切り替えます。

Webメールの移行手順

重要

Webメールの場合、基本的にレンタルサーバー間でのメールデータの直接移行はできません。いくつかの対応策を検討する必要があります。

Webメール移行の主な対応策

対策1: メールソフトを導入して移行する

  1. 現在のWebメールに対応するメールソフト(Outlook、Thunderbirdなど)を導入
  2. POP/IMAPでメールソフトを設定し、すべてのメールをダウンロード
  3. 新サーバーにメールアドレスを発行
  4. メールソフトに新サーバーのアカウントも設定
  5. ダウンロードしたメールを新アカウントへ移動
  6. DNSの設定を変更

対策2: 重要なメールのみ保存する

  1. 保存が必要な重要なメールを特定
  2. 重要なメールをPDFに保存、または転送
  3. 新サーバーにメールアドレスを発行
  4. DNSの設定を変更

※この方法では過去のすべてのメールは引き継げません

対策3: 同一サーバー会社間の場合(一部可能)

エックスサーバー同士やさくらインターネット同士など同じサーバー会社内での移行の場合、FTPでのデータ転送が可能な場合があります。

  1. FTPで旧サーバーにアクセスしてメール領域のデータをダウンロード
  2. 新サーバーにFTPでアクセスしてメール領域に丸ごとアップロード
  3. DNSの設定を変更

※この方法はサーバー会社によって対応が異なるため、事前に確認が必要です

DNSとMXレコードの設定

DNSとは

DNS(Domain Name System)は、ドメイン名(example.com)をIPアドレス(123.456.789.0)に変換するシステムです。メールサーバーの場合は、MXレコードという特別な設定が必要になります。

MXレコードの変更手順

1. 現在のDNS設定を確認する

移行前に、現在のMXレコードの設定を記録しておきましょう。いざという時のロールバック(復旧)に備えます。

2. DNS設定ができる場所を特定

DNSの設定は以下のいずれかの場所で行います:

  • ドメイン登録業者の管理画面(お名前.com、ムームードメインなど)
  • レンタルサーバー業者のコントロールパネル
  • 外部DNSサービス(Cloudflareなど)

3. TTL値を短くする(可能であれば)

TTL(Time To Live)はDNS情報がキャッシュされる時間です。切り替え前日にTTLを短い値(300秒など)に設定すると、切り替え後の浸透が早くなります。

4. MXレコードを変更する

移行先サーバーのMXレコード情報(サーバー会社から提供されます)を設定します。

例:

ホスト名: @ または空白

タイプ: MX

優先度: 10

値: mx.example.server.jp

注意点

  • 浸透時間: DNS変更が全世界に浸透するまで最大72時間かかります。
  • 不安定期間: その間は新旧サーバー両方にメールが届く可能性があるため、両方を確認する必要があります。
  • バックアップ: 設定ミスがあった場合に備え、元の設定は必ず記録しておきましょう。

ベストプラクティス

DNS変更は、メール利用の少ない時間帯(夜間や週末)に行うことをお勧めします。また、変更後に必ず実際のメールで送受信テストを行いましょう。

よくあるトラブルと対処法

トラブル 対処法
メールが受信できない
  • DNS(MXレコード)設定が正しいか確認
  • メールソフトの受信サーバー設定を確認
  • 旧サーバーも引き続き確認(DNS浸透中の可能性)
  • メールサーバーのログを確認(可能な場合)
メールが送信できない
  • SMTPサーバー設定、ポート番号を確認
  • 認証情報(ユーザー名、パスワード)を確認
  • SSL/TLS接続設定を確認
  • ISPが特定のポートをブロックしていないか確認
過去のメールが見つからない
  • IMAP/Webメールの場合:データ移行が完了しているか確認
  • IMAPフォルダの表示設定を確認
  • バックアップからの復元を検討
エラーメッセージが表示される
  • 「認証失敗」→ アカウント情報を再確認
  • 「接続タイムアウト」→ サーバー名やポート番号を確認
  • 「SSL証明書エラー」→ SSL設定を確認
メールが不規則に届く
  • DNSの浸透中は新旧両方のサーバーをチェック
  • スパムフィルターの設定を確認

DNSキャッシュのクリア方法

DNS設定を変更したのに反映されていない場合は、ローカルのDNSキャッシュをクリアしてみましょう。

Windows:

ipconfig /flushdns

macOS:

sudo dscacheutil -flushcache; sudo killall -HUP mDNSResponder

Linux:

sudo systemd-resolve --flush-caches

移管作業の最終チェックリスト

移行前チェックリスト

  • 現在のメール運用方法(POP/IMAP/Webメール)を確認
  • すべてのメールアドレスの一覧を作成
  • 現在のDNS設定(特にMXレコード)を記録
  • 重要なメールデータのバックアップを作成
  • 移行スケジュールを関係者に通知

移行中チェックリスト

  • 新サーバーですべてのメールアドレスを設定
  • IMAP/Webメールの場合、メールデータを新サーバーに移行
  • メールソフトに新サーバーの設定を追加
  • DNSのMXレコードを新サーバーの情報に更新

移行後チェックリスト

  • テストメールの送受信確認
  • すべてのメールアカウントが正しく機能しているか確認
  • DNS浸透中は旧サーバーも定期的に確認
  • 移行から1週間後に旧サーバーのメール確認(取りこぼし防止)
  • 問題なければ、旧サーバーを解約

プロのアドバイス

お客様のビジネスに重要なメールサーバーの移行は、プロに依頼することも検討しましょう。1ドメインあたり3万円程度から代行サービスを提供する会社もあります。

まとめ:成功するメールサーバー移管のポイント

  1. 事前準備が重要
    現在の運用方法を確認し、必要な情報を整理してから移行に着手しましょう。
  2. 運用タイプに合わせた移行計画
    POP・IMAP・Webメール、それぞれに適切な移行手順を選びましょう。
  3. データバックアップは必須
    万が一の事態に備え、必ず移行前にメールデータのバックアップを取得しましょう。
  4. DNS設定の変更には余裕を持って
    DNS変更後の浸透には時間がかかるため、アクセスの少ない時間帯に行い、すぐに確認作業をしましょう。
  5. 旧サーバーはすぐに解約しない
    最低でも1週間は旧サーバーを維持し、メールの取りこぼしを防止しましょう。

サーバー移管は複雑に感じるかもしれませんが、正しい手順と十分な準備があれば、フロントエンドエンジニアの方でも安全に実施することができます。この記事が皆さんの移行作業の一助となれば幸いです。

この記事は、サーバー移管を理解するための情報提供を目的としています。実際の移行作業は、お客様の環境に応じて適切な方法を選択してください。